発生期大脳皮質の脳室帯(神経幹細胞が存在)と中間帯(最終分裂を終えて新たに誕生した神経細胞が、脳表面に向かって移動する途中の部位)を、それぞれ実体顕微鏡下で切り出して、二種の異なる蛍光色素でラベルした後、混合して再凝集培養を行うという実験等により、分散時に中間帯にあった(より)早生まれの神経細胞と、脳室帯にあった(より)遅生まれの細胞では、それぞれが特異的に凝集する傾向を有することを見いだした。そして、中間帯の神経細胞間の方が、脳室帯の神経細胞間よりもその凝集傾向が強いことを示唆する結果を得た。この結果は、中間帯細胞と脳室帯細胞の間の一般的な特徴の相違というわけではなく、少なくとも胎生14日生まれの細胞については、誕生時期特異的な性質であることを見いだした。すなわち、胎生14日生まれの細胞は、培養開始時点における局在部位に関わらず、それ以前やそれ以後に誕生した細胞と、再凝集培養下において互いに分離して凝集する傾向を示した。以上の結果から、脳室帯で産生された大脳皮質神経細胞(興奮性の投射性神経細胞)は、辺縁帯直木まで移動しなくても、既に移動中において、その誕生時期に依存して相互に凝集する性質を獲得している可能性が示唆された。また、辺縁帯に存在するカハール・レチウス細胞からは、正常な層形成に必須とされるリーリンが分泌され、移動細胞の最終配置を制御すると考えられているため、次に、この誕生時期依存的な細胞凝集傾向にリーリンが関わっているかどうかを検討した。その結果、リーリンシグナルを受容する移動細胞の細胞内で、それを伝達するために必須であることが知られているDab1の欠損マウスであるヨタリ突然変異マウス(リーリン欠損と同様の脳の形態異常を示す)においても、上記の誕生時期依存的な細胞凝集傾向は認められた。以上より、リーリンシグナルとは独立に、この特異的凝集能は獲得されることが示唆された。
|