ショウジョウバエ翅成虫原基の前後区画の形成に必須なHhシグナル伝達系で働く転写因子Ciに結合する因子Dbr (determiner of breaking down of Ci activator)を単離した。CiはDNA結合領域と転写活性化領域の間で切断を受け、転写活性型Ci-155と転写抑制型Ci-75が存在する。in vitro結合実験により、DbrはCiのN末端の転写抑制領域と下流のZn finger領域に結合することより、DbrはCi-155とCi-75のいずれにも結合することが分かった。二種のCi蛋白質の転写活性に対してDbrがどのような役割を持っているかを明らかにするためdbr locusの突然変異体を単離し、その遺伝学的解析より、Ci-155のみが特異的にDbrにより蛋白質分解を受け、転写活性が抑制されていることが示唆された。Ci-155蛋白質の分解時にDbrによりユビキチン化が生じるかを生化学的に調べた結果、DbrはCi-155を効率良くユポリビキチン化することが分かった。さらに、DbrによるCi-155の蛋白質分解はproteasome阻害剤では阻害されなかったが、lysosomal protease阻害剤で強く抑制された。DbrとCiの細胞内局在を免疫電顕法により調べた結果、両者はlysosome分解に中心的な役割を持つendosome系オルガネラMVB (multi-vesicular body)の限界膜上に存在した。Ciはまた、MVBの限界膜が陥入して形成される内部小胞にも観察された。以上の結果から、DbrによるCi-155の蛋白質分解はubiquitin-proteasome系ではなく、MVB/endosome系を介したlysosomeにより分解され、Dbrによるユポリビキチン化はMVBの内部小胞にCiを選別輸送するための分別標識として作用していることが明らかになった。
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