C.elegansにおいて、いくつかの細胞の非対称分裂はlin-44/wntとその受容体をコードするlin-17/frizzledによって制御されている。われわれは、このシステムによって制御されているT細胞の非対称分裂が、異常になる変異体をスクリーニングし、多数の遺伝子(psa遺伝子)を同定している。これらの遺伝子の一つ、psa-3遺伝子をクローニングしたところ、哺乳類のMeis蛋白のに類似した蛋白をコードしていた。哺乳類においてMeis蛋白はPbx蛋白とともにHox蛋白に結合してその働きを制御している。われわれは線虫においても、psa-3/Meisに加えて、ceh-20/Pbxとnob-1/Hoxが非対称分裂に関与していることを明らかにした。また、psa-3変異体において、psa-3遺伝子の配列を決定したところ、プロモーター領域に欠失があることがわかった。この領域にはWntシグナルの下流で働く転写因子POP-1/TCFの結合配列が見つかった。次にpsa-3遺伝子の発現をGFPとの融合遺伝子を作成して調べた。この融合遺伝子はpsa-3変異体をレスキューすることができ、融合遺伝子は機能機である。しかし、POP-1の結合配列を変異させるとレスキューする活性が失われた。また変異を導入すると、次に述べるT細胞系譜での発現も消失した。以上のことから、psa-3の発現はWntシグナルによって直接制御されていることがわかった。GFP融合遺伝子の発現はT細胞でも弱く観察されるが、T細胞の分裂後、娘細胞間で発現が異なる(後ろ側の娘細胞の方が、前側より強い)ことがわかった。以上の結果、psa-3は非対称分裂の際に、Wntシグナルによって片側の娘細胞に強く誘導され、非対称な細胞運命を制御していると考えられる。
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