研究概要 |
ショウジョウバエの光受容細胞におけるDeltaの発現には、受容体型チロシンキナーゼである上皮増殖因子受容体(Egfr)からのシグナル伝達が重要であることが確かめられている。本研究では光受容細胞でEgfrシグナルの下流で機能するebiを含むebi/Smrter/Su (H)/snoの転写コリプレッサー複合体の標的因子の同定をYeast Gal4-UASシステムを利用したGene Search System (GS)を用いて、複眼特異的発現による形態異常とebi変異体との遺伝的相互作用を指標にして行った。その結果6,000のGS系統の中から標的因子候補が1系統得られ、taco(a target of the corepressor complex)と名付けた。tacoはC2H2型のZnフィンガーを有する転写因子をコードしており、過剰発現により光受容細胞におけるDlの発現ならびにコーン細胞の分化を強く阻害した。さらに、tacoのゲノム領域を調べたところSu (H)の結合部位が見い出されSu (H)を含む転写複合体により直接制御を受ける可能性が考えられることからtaco cDNAをプローブとしてin situハイブリダイゼーションを行った。その結果、野生型でtacoは複眼において未分化な神経細胞に一過性に発現しているが、ebiの変異体ではtacoの発現上昇が見られ、最終分化した神経細胞にも発現が観察された。さらにtacoの発現はEGFシグナルの活性化により抑制されることが示されたことからtacoの発現自身、EGFシグナル、ebiにより抑制されていることが示唆された。以上の結果からtacoはEGFシグナル、ebi/smrter/Su (H)/snoの直接の標的因子であることが確かめられ、EGFシグナルの下流でコリプレッサー複合体、tacoという2重抑制が働いてDlの発現調節を行っていることが明らかになった。
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