研究概要 |
線形動物ミトコンドリアでは、通常のクローバーリーフ型とは異なった、Tarmが欠けたtRNAとDarmが欠けたtRNAという異常な形をした2種類のtRNAが存在することが知られている。一般にTアームは伸長因子Tu(EF-Tu)の認識部位であり、tRNAの機能に重要とされているが、線形動物ミトコンドリアではセリンtRNAを除く20種のtRNA全てがTアームを欠いている。これらのtRNAに結合するEF-Tuとして、通常の翻訳系ではEF-Tuは1種類であるのに対し、2種類の異常なtRNAそれぞれに結合する2種類のEF-Tuが見つかった。 このうち、Tアーム欠失tRNAにのみ結合するEF-Tulは、原核生物・真核生物細胞質のEF-Tuと比べC末端に57残基の延長部位を持ち、Tアーム認識に関わるとされる共通アミノ酸配列を持たない。以上のことからEF-Tu1は独特のtRNA認識機構をもつと考えられた。そこで本研究では線形動物ミトコンドリアにおけるtRNA短縮化とEF-Tu延長化の共進化機構の解明を目的とし、Tアーム欠失tRNAとEF-Tu1の認識機構を解析した。 まず我々は線形動物Ascaris suumミトコンドリアのT-アーム欠失tRNAの全ての9位に修飾塩基1-メチルアデノシン(m^1A9)が存在することを発見した。更にEF-TulのtRNA結合にはこの塩基修飾が必須であることを証明した。そこで我々はこのm^1A9を持つtRNAをRNAの酵素的連結法により合成し、tRNAとEF-Tu1の認識部位の解析を行った。まずリン酸基アルキル化試薬を用いた結合阻害解析及びtRNA-EF-Tu1架橋体に対するプライマー伸長法により、EF-Tu1がTアーム欠失tRNAのDアームを認識することを明らかにした。またEF-Tu1のC末端延長部位欠失変異体のtRNA結合活性を測定することにより、EF-Tu1がtRNAと結合するには延長部位全長が必要であることを示した。以上の結果を総合した立体構造モデルにより、EF-Tu1は延長部位によりTアーム欠失tRNAのL字構造の内側からDアーム周辺を認識していることが示唆された。Dアームを認識するEF-Tuの例はこれまでに無く、線形動物ミトコンドリアではtRNAがTアームという通常の認識部位を失ったためEF-Tuがこれを補うように共進化し、新たな認識部位を獲得したものと考えられる。本研究成果は、以下の原著論文として報告した。Sakurai et al.,Biochem J.,399,249-256(2006).
|