研究課題
タンパク質合成の終結に働く翻訳因子は、tRNAの機能や構造を擬態して作用する「分子擬態」という特性をもつと同時に、動物のPrPプリオンと同様なタンパク質の特徴をもつ、ユニークな対象である。本研究では、tRNA分子擬態の機能的な解明、tRNA分子擬態の構造的な解明、プリオン様特性の機能的な解明、ならびに、酵母プリオン伝搬機構の解明を行い、翻訳マシーンの情報発現系ネットワークにおける分子擬態とプリオン特性の役割を明らかにするために研究を実施して、以下の研究成果をえた。分子擬態に関する研究1.解離因子はtRNAを擬態しリボソーム上で終止コドン(遺伝暗号)を解読するが、リボソームとの相互作用については不明な点が多い。今年度は、解離因子の機能不全を回復できるリボソーム上の変異を多数分離し、それらがリボソームL11タンパク質の全域にマップされることを明らかにした。L11は他の翻訳因子の相互作用部位として知られており、解離因子も最初にL11にアクセスしてリボソームへの機能的な複合体を形成するものと考えられ、新しいモデルとともに研究成果を発表した。2.ペプチド解離後のリボソーム複合体は再生因子(RRF)と翻訳伸長因子EF-Gの働きにより解体・再生される。RRFタンパク質はtRNAと酷似した構造をもち、tRNAと同様にリボソーム粒子間の狭い接触面に入り込むとみられる。本年度の研究では、RRFが翻訳終結のみならず、翻訳の伸長過程でも作用すること、ならびにその際には、EF-Gではなく、RF3と機能的な相互作用をすることが明らかになった。酵母プリオンに関する研究1.酵母eRF3はSUP35遺伝子によりコードされ、そのN末端ドメインのプリオン性ペプチド配列により動物プリオンと共通する特徴を示す。Sup35プリオンの機能不全は終止信号無視である。プリオン化と維持に関与する宿主側の因子を網羅的に探索する目的で、「プリオン→正常化」の変換を検出できるpositive selectionのシステムを構築した。2.その遺伝学システムを利用して、トランスポゾン挿入による「プリオン→正常化」の表現型を示すゲノム上のランダムなノックアウト変異体を多数分離した結果、それらはすべてHSP104シャペロンにマップした。それらの詳細な解析によって、既知のHSP104シャペロン機能とはことなる新しい作用が示唆された。3.プリオン「株」の違いがプリオン化領域のコンフォメーションの違いとして安定に複製電波・伝搬することを証明し、Conformational Memory概念を提唱した。
すべて 2006 2005
すべて 雑誌論文 (11件)
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