研究概要 |
H.Kazazianのグループは遺伝病の原因となったL1 LINEをヒトの培養細胞へ導入し、L1 LINEの高頻度転移の誘発に成功した。この系を用いて、L1 LINEの転移分子機構が明らかになりつつあるが、L1 LINEは、逆転写反応開始時の鋳型RNAの認識が緩やかである点が特殊である。このため、逆転写反応開始時の鋳型RNA認識が厳密で、ゲノムへの挿入配列特異性は無いような、より一般的なLINEの研究が待望される。 本研究では、この実験系を用いて、ウナギLINEの逆転写酵素による鋳型RNA3'末端配列の認識機構を解析した。この系を用いた現在までの解析により、次の結果が得られた。3'相同配列全体を欠失すると、転移活性が失われ、予想されるステム-ループ構造の一部を崩す変異は、概ね転移活性を失い、このステム-ループ構造の塩基対を保つ変異も、転移活性を減少させる。このため、LINE RNA 3'配列の立体構造が、LINE逆転写酵素が逆転写反応を開始するのに必要であると思われるが、同時に特定の塩基配列も必要とされる可能性が高い。本研究では、LINE RNA 3'配列の変異体を体系的に作製し、LINE RNAとLINE逆転写酵素の相互作用の側面からLINEの転移機構を探った。我々は、培養細胞を用いてウナギLINEの転移を誘発・検出する系を確立し、この系を用いて、SINEとLINEの3'末端共通配列の機能を初めて実験的に示すことに成功した(Kajikawa & Okada, Cell, 2002)。ウナギLINEは、ゲノムへの挿入配列特異性が無く、逆転写反応開始時の鋳型RNA認識は厳密なタイプであり、この研究の発展によりLINE転移機構のより一般的な理解が進展することが期待される。
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