本研究では、「RNA情報発現系の時空間ネットワーク」の基盤となるRNAの核から細胞質への動きを、核外輸送因子群による「RNAの身分証明」過程という概念で捉え、その様々な制御機構を明らかにすることを目指している。平成14年度は、mRNA型のイントロンを別種のRNAであるUsnRNAに挿入するとUsnRNAの核外輸送経路がmRNAのそれに切り替わる事を証明した。この事はイントロンがmRNAの核外輸送における身分証明書的特徴として機能していることを意味しており、mRNAの身分証明過程の重要な一端が明らかになった。しかしながらイントロンがmRNAの唯一の身分証明書的特徴とは考えられない。元々イントロンを持たないmRNAも多く存在するからである。 そこで平成15年度はイントロンに依存しないようなmRNAの身分証明書的特徴を検索した。mRNAはUsnRNAに比べて長大であるという特徴がある。そこで、U snRNAに約300塩基長のcDNA断片を挿入したところ、長くなったRNAは挿入cDNA断片の塩基配列にかかわらず、U snRNAとしてではなくmRNAの経路で核外へ輸送されることが分かった。次にU snRNAがmRNAとなるためにはどの程度の長さの挿入が必要かmRNA由来の様々な配列を挿入し調べたところ、挿入配列が長くなるに従いU snRNAではなくmRNA型の輸送機構に徐々に変化し、挿入配列が300塩基長を越えた場合には、ほぼmRNAとして振る舞うという結果を得た。これらの結果から、RNAの長さがRNAの身分証明過程における重要な要素である事が強く示唆された。
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