本研究では、「RNA情報発現系の時間ネットワーク」の基盤となるRNAの核から細胞質への動きを、核外輸送因子群による「RNAの身分証明」過程という概念で捉え、その様々な制御機構を明らかにすることを目指している。「イントロンの存在」と「比較的2次構造の取りにくい300塩基長以上のRNA領域の存在」の2つの特徴が、mRNAのIDエレメントとして機能する事などを明らかにしてきた。平成18年度は、「イントロン」「RNAの長さ」に加えて、「ポリAの尾」がRNA輸送の経路を決定する要因であることを示唆する実験結果を得た。アフリカツメガエルの卵母細胞核へ、50塩基長まで短くしたイントロンを持たないmRNAを微量注入すると、このRNAは期待通りU snRNAとして認識されU snRNAの機構で核外へ輸送された。ところが、mRNAのプロモーターとポリA付加シグナルを持つDNAコンストラクトを微量注入し、同じ配列を持つRNAを/in vivo/で転写させると、その転写物は、概ねmRNAとして認識されmRNAの機構で核外へ輸送された。詳しく調べてみると、ポリAの尾を持ったものがmRNA化していることが分かった。プロモーター配列として、mRNAのものではなくU1RNA遺伝子のものを用いても結果は同じであった。ところが、ポリA付加シグナルの代わりにポリAの付加されないU1遺伝子の転写終結信号を用いたところ、転写物のmRNA化は起こらなかった。この結果は、ポリAの尾(の付加)がmRNAのIDエレメントとして機能することを意味し、ポリAの尾の新しい機能を示したものである。ポリA付加反応が重要なのか、あるいはポリAの尾の存在そのものが重要なのかは現在のところ明らかでないので、さらに詳細な解析を行っている。
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