Hu蛋白質は、アデニンとウリジンに富んだ配列を3'非翻訳領域にもつようなmRNAの安定性の制御、核外輸送、あるいは翻訳制御に重要な働きをもつことが示唆されているRNA結合蛋白質である。特に、神経特異的なHu蛋白質は、哺乳類の神経細胞分化を正に制御する機能をもつことが我々のグループによるこれまでの研究から知られている。今年度の研究では、神経特異的Hu蛋白質のひとつであるHuDが、細胞内の大多数のmRNAの核外輸送受容体であるTAP/NXF1と特異的に相互作用することを、特異的抗体を用いた免疫沈降実験によって明らかにした。組換え蛋白質を用いた結合実験から、HuDとTAP/NXF1との相互作用が直接的なものであること、また、このTAP/NXF1-HuD複合体中においてもHuDのRNA結合能は維持されること、さらにTAP/NXF1の核膜孔複合体相互作用ドメインはHuDと相互作用した状態でも機能可能であることが示唆された。興味深いことに、各組織に広く発現するHu蛋白質であるHuRはTAP/NXF1と相互作用しないことが明らかになった。また、神経細胞分化を誘導したラットPC12細胞の神経突起先端部において、HuDとTAP/NXF1が共局在することも明らかになった。このことは、これまでmRNAの輸送受容体としての知られていたTAP/NXF1が、翻訳制御などの別機能をもつことを示唆している。これらのことから、神経細胞においてHuDがTAP/NXF1のアダプター分子として特異的なmRNAの核外輸送や翻訳制御に関与する可能性を提唱した。
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