本研究は、機能性RNAの作用機序を分子レベルで理解し、それを応用することで新たな治療戦略を探ることを目的とする。本年度は、(1)白血病原因遺伝子のRNAiを用いたノックダウン、(2)造血細胞分化系とmicroRNA発現、(3)人工進化RNA(アプタマー)を利用した癌診断・治療薬の開発、(4)テロメレース・リボヌクレオ蛋白質複合体の構造と機能の解析について、以下の結果を得た。 (1)急性骨髄性白血病8;21転座による融合遺伝子AML1-MTG8の長期ノックダウンを目的として、ヘアピン型siRNA発現レトロウイルスベクターを白血病細胞に導入したところ、クローン化能が著しく低下した。AML1-MTG8による自己再生能の亢進から解除されたと考えられる。 (2)白血病細胞株HL60のTPAによる単球/マクロファージ分化系を用いて、分化の過程でのmiRNAの発現量の変動を調べた結果、分化に伴って増加する群は分化の後期で上昇すること、減少する群は、一旦初期に上昇した後減少する群あるいは再度上昇した後に減少する群の2群に分類できた。 (3)KRAS蛋白質C末端に結合するアプタマーを得た。in vitroでのファルネシル化阻害およびRASと相互作用するRAF蛋白質との結合阻害効果を調べたが、高い阻害効果は得られなかった。 (4)HA-Flag-tagをN末端にもつヒトテロメレース触媒サブユニットTERTを発現するベクターをレトロウイルスを用いてHeLa細胞に遺伝子導入し、リコンビナント蛋白質を構成的に発現する株を作成した。この株は、対照と比べて高いテロメレース活性をもち、テロメア長も対照の5-8kbに比べて約20kbと有意に伸長していた。このことから、遺伝子導入したTERTはテロメレース複合体として機能しているものと判断された。TERTは鋳型RNAほか複数の構成成分からなるRNA・蛋白質複合体であり、精製がきわめて困難とされてきた。しかし、今回、N末端に付したタグ配列を用いた2段階の免疫沈降により、かなり特異的に複合体を精製することが可能であることが分かった。現在、精製された複合体について質量分析器を用いて蛋白質の同定を行っている。
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