本研究は、機能性RNAの作用機序を分子レベルで理解し、それを応用することで新たな治療戦略を探ることを目的とする。本年度は、(1)白血病原因遺伝子のRNAiを用いたノックダウン、(2)造血細胞分化系とmicroRNA発現、(3)人工進化RNA(アプタマー)を利用した癌診断・治療薬の開発、(4)テロメレース・リボヌクレオ蛋白質複合体の構造と機能の解析について、以下の結果を得た。 (1)shRNA発現レトロウイルスを白血病細胞に導入し、AML1-MTG8のノックダウン細胞株を得た。この株はクローン化能およびCD34発現が減少した。この結果からノックダウンによってAML1-MTG8による自己再生能の亢進や分化抑制から解除されたことが示唆された。 (2)HL60細胞のTPAによる単球/マクロファージ分化系において、TPAの刺激による細胞のシグナル応答と遺伝子発現のリモデリングを検討し、miRNAとの時空間での接点を予測した。さらにそれを検証する系を作製している。 (3)AML1-MTG8に対するアプタマー作製が進行中である。これまでにAML1のRUNT領域に結合するアプタマーを得た。RUNTアプタマーは、小型化、化学修飾による安定化等の改良を行い、さらに抗MTG8抗体と組み合わせることで、特異的にAML1-MTG8を検出することができた。 (4)我々が作成したエピトープタグ付きヒトテロメレース触媒サブユニットTERTを恒常的に発現するHeLa細胞より、TERT複合体の精製単離を試みた。TERT複合体には、細胞質などを含む可溶性画分とクロマチン等が回収される画分に抽出される異なる分子種が存在し、それぞれの複合体の大きさは660kDa以上および250〜660kDa程度であることを明らかにした。質量分析器により同定された可溶性画分の複合体構成候補因子の中には、テロメアに局在することが報告されているDNA-PKcsのほか、複数の翻訳開始複合体の構成因子が含まれていた。これらの困子はテロメア以外における機能も知られており、単純なノックダウン実験の対象には適しておらず、テロメレース活性に対する機能を評価するに現時点では至っていない。一方、クロマチン画分より回収されたTERT複合体は、その回収量が微量であるため、蛋白質の同定に至っていない。現在、精製規模の拡大によって質量分析器による蛋白質同定を試みている。
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