研究概要 |
(1)PSKのin plantaにおける機能解析を進めるため,アラビドプシスにおけるPSK受容体(AtPSKR1)の遺伝子破壊株(pskrl-1)の解析を行なった.アラビドプシスPSK受容体遺伝子は複数存在する可能性があるが,pskrl-1の膜画分における[3H]PSK結合活性は検出限界以下であることから,AtPSKR1が主要なPSK受容体であると考えられる.pskrl-1のホモ体は正常に発芽し,若い植物体の形態は野性株と区別がつかないが,組織の老化が早い傾向が観察された.すなわち,(a)子葉・本葉ともにearly senescenceを示す,(b)無傷植物においてもエチレン処理により著しいsenescenceが誘導される,(c)葉片を暗処理すると著しいsenescenceが誘導され,サイトカイニン処理でも抑制されない,(d)エチレン処理および暗処理によりsenescenceマーカーであるSAG12が早期発現する,などの形質が観察された.これらのことから,PSKはpost-mitoticなagingを抑制することで細胞のポテンシャルを高め,多面的な生理効果を示しているものと考えられる(投稿準備中). (2)培養系における植物細胞は低密度では増殖しにくいため,植物細胞で形質転換を行なう際には,実際に遺伝子導入されたごく少数の細胞を確実に増殖させる段階が形質転換効率に大きく影響する.そのため保護培養(nurse culture),すなわち活発に増殖を続ける細胞の近傍で培養することで疑似的に密度を高める手法がしばしば用いられてきた.PSKを培地に添加すると低密度における植物細胞の増殖が顕著に促進されることから,形質転換の際にごく少数しか存在しない遺伝子導入細胞の分裂増殖を促進し,形質転換効率が向上することが期待される.我々は,ニンジン胚軸のアグロバクテリウムによる形質転換系をモデルとして検討を行ない,形質転換時の選択培地にPSKを添加すると,ごく少数しか存在しない遺伝子導入細胞の増殖が促進され,形質転換効率が著しく向上することを実証した.
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