大腸菌には少なくとも90種のリポ蛋白質が存在し、その大部分は外膜に局在する。大腸菌のリポ蛋白質は一般に、脂質部分で膜にアンカーし、蛋白質部分は水溶性のペリプラズム空間に露出していると推測される。機能が明らかになっているリポ蛋白質はごく限られているが、ペリプラズムに存在する様々の細胞機能に関与している蛋白質群であると考えられる。リポ蛋白質の内、外膜特異的NlpEのみが大量発現すると2成分情報伝達系であるCpxA/Rを活性化し、ペリプラズムの品質管理に関わるプロテアーゼDegPの発現を誘導するとされていた。そこで、90種すべてのリポ蛋白質をそれぞれ大量発現し、DegPの発現誘導を解析する実験系を構築して調べたところ、新規リポ蛋白質であるYafYがNlpEより強くDegPの発現を誘導することが明らかになった。ところが、アミノ酸配列がYafYと90%以上相同であるYfjSは、大量発現してもDegPの発現を誘導する効果はなかった。そこで、両方のリポ蛋白質で相同でない12種のアミノ酸残基を交換して、DegPの発現誘導に重要な残基を特定することを試みた。その結果、特に重要と思われる3アミノ酸残基を明らかにした。YafYは選別シグナルから予想されるように内膜特異的であることを明らかにした。また、NlpEやYafYの選別シグナルをそれぞれ内膜特異的、外膜特異的に変換しても、DegPの発現を誘導する効果に大きな変化はなかった。一方、膜アンカー部分である脂質修飾を欠失させるとDegPの発現誘導する効果はなくなった。以上の結果から、YafYはNlpEとともに働くシグナル伝達系を構成するリポ蛋白質因子であることが推測される。
|