ペニシリン処理した大腸菌細胞では、まず細胞中央(分裂予定面)にバルジが形成され、そこから溶菌が引き起こされることが知られている。透過型電子顕微鏡での観察によりバルジ形成部位に小胞状の構造体が見いだされた。小胞を分離しそのタンパク質を分析したところシャペロンとして知られるGroELタンパク質が濃縮されていることを見いだされた。そこで間接免疫蛍光染色法によりGroELの細胞内局在性を調べたところ、細胞中央に特異的に局在することを見いだした。GroEシャペロンの小サブユニットGroESタンパク質は小胞内には検出されず、細胞中央への局在も認められなかった。様々な細胞分裂変異株でのGroELの局在をしらべたところ、ftsZ変異株では局在が見られないが、その他の変異株では分裂予定面への局在が観察された。このことからGroELの細胞中央への局在は分裂環(FtsZリング)の形成に依存するが、その他の細胞分裂タンパク質には依存しないことが示された。また、groEL変異株でのFtsZリングの形成を調べたところ、その異常が認められた。精製FtsZタンパク質とGroELとの相互作用を調べたところ、GroELはFtsZモノマーには結合しないが、FtsZ重合体に特異的に結合することが判明した。これらのことから、GroELは細胞分裂においてFtsZリングの形成に伴って分裂面に局在化して分裂装置の形成や維持に機能していると考えられた。
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