研究概要 |
ミトコンドリア機能維持の中心的プロセスは,サイトゾルで合成されたミトコンドリアタンパク質前駆体のミトコンドリア移行である。本研究では,酵母ミトコンドリアタンパク質のミトコンドリア膜透過を担うトランスロケータの構造と機能の解明をめざした。 タンパク質を通すトランスロケータのチャネル,すなわち「穴」はどんな穴なのか。われわれは,ミトコンドリア外膜でタンパク質の通る穴をつくるTom40とその中をヒモのようになって通り抜けるタンパク質の空間的な位置関係を,「部位特異的光架橋法」で解析した。その結果,通過中のタンパク質の90アミノ酸分の長さの配列が穴の中にあることが分かった。ヒモ状になって伸びきったタンパク質は,30アミノ酸くらいの長さがあれば十分に生体膜1枚分の穴を通過できるので,その3倍もの長さのタンパク質が穴の外に出ずに,穴の中に留まっていたことになる。さらに詳しく調べると,タンパク質のヒモが自分で折れたたまれて立体構造をきちんと作れる場合は穴から出て行くが,きちんと折れたためないうちは,穴の中に留まることが分かった このような性質は,細胞の中の水溶液中で合成されたタンパク質の文体構造形成を助ける「分子シャペロン」に似ている。たとえば,試験管の中で変性して立体構造がこわれたタンパク質は凝集して沈殿してしまうが,分子シャペロンを入れておくと凝集が防がれ,沈殿が生じなくなる。そこでTom40を精製して同様の実験をしたところ,Tom40も変性タンパク質を保護し,凝集を防くことがわかった。 以上の結果は,Tom40はミトコンドリアの中に行くべきタンパク質が穴から出ていったら,自分ではまだ立体構造をつくれずに凝集してしまうなどの危険がある場合は,一人前になれる準備が整うまで内部に留め置き,保護する役目を持っていることを示唆する。さらにタンパク質が穴に入る前に立体構造を作ってしまった場合は,穴に入るためにそれをヒモのようにほどくアンフォルダーゼとしての機能を有する可能性も示唆する。
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