バクテリアのtrans-translationは、主に終止コドンを持たないmRNAの3'末端で立ち往生したリボソームを標的として起こると考えられている。たとえmRNA上に終止コドンが存在したとしても、その終止コドンが読み飛ばされてしまった場合、やはりリボソームはmRNAの3'末端に到達して立ち往生するものと考えられる。この仮説の下に、翻訳終止コドンの読み飛ばしがtrans-translationに与える影響を解析した。特定の終止コドンをある確立でセンスコドンとして読むsuppressor tRNA存在下では、内在性標的に対するtrans-translationの頻度が高くなることが明らかとなった。また、亜致死量で存在するとコドンの誤読を引き起こすために「miscoding drug」と呼ばれる一連のアミノグリコシド系抗生物質によっても、内在性標的に対するtrans-translationの頻度が高くなった。終止コドンがセンスコドンとして誤読された結果、リボソームがmRNAの3'末端に到達したものと考えられる。suppressor tRNA、miscoding drugいずれの場合も、モデル遺伝子におけるtrans-translationの頻度の上昇も観察された。これらのことから、終止コドンの読み飛ばしによってリボソームがmRNAの3'末端に到達してtrans-translationの標的となることが示された。trans-translationが起こらないssrA変異株は、suppressor tRNA存在下での生育が遅くなる、miscoding drugに対する感受性が高まるなどの表現型を示すことから、ORFが規格外に延長したことによって生じる悪影響を回避する手段としてのtrans-translationの生理的意義が示唆された。
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