研究概要 |
VCPはポリグルタミンに結合するタンパク質として同定されたATPaseである。本研究では、VCPを細胞のおかれた様々な環境因子を、蛋白質の修飾を通じて細胞機能の変化に転換するセンサー兼エフェクター蛋白質としてとらえて研究を展開している。各種の神経変性疾患でVCPと凝集体の関係をVCP特異的抗体で患者脳を染色し検討した。VCP陽性となった凝集体は痴呆を伴う運動ニューロン疾患やクロイツフェルト・ヤコブ病におけるballooned neuron,アルツハイマー病の老人斑でのdystrophic neurite,およびパーキンソン病のLewy小体(マリネスコ小体)で認められた。凝集体がVCPを通じて細胞機能に及ぼす影響している経路として酸化ストレスの生成を疑い、精製VCP蛋白質を酸化剤で処理し、ヤススペクトロメトリーで酸化ストレスにより修飾を受けるアミノ酸残基を同定した。酸化修飾を受けやすい4つのシスティン残基のうち一つの残基をスレオニンに変えるだけでVCPのATPase活性を酸化ストレスに対して耐性とすることが出来た。この変異体の発現でショウジョウバエ複眼はポリグルタミン細胞死に耐性となった。酸化ストレスと細胞死の関係では、酸化ストレスを生成する亜砒酸を活性酸素消去系であるグルタチオン生合成酵素の阻害剤BSOとともに処理することで、亜砒酸の有効濃度を低下させ同時に細胞死誘導効果のガン細胞に対する特異性を高めることに成功した。実際にin vivoのマウス前立腺癌の転移モデルでも、この同時処理は副作用のない濃度で前立腺癌の転移を抑制することが出来た。酸化ストレスを介した癌の増殖・転移抑制にVCPが果たしている役割は興味深い。酸化修飾の他にもVCPはリン酸化を始めとして様々な修飾を受けていることをマススペクトロメトリーによる解析で明らかとした。意外にも、活性部位から離れたC末領域でのアセチル化がVCPのATPase活性に大きく影響を与えると判明し、このメカニズムおよびアセチル化の反映する細胞状態についていくつかの仮説を検証している。
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