小胞体内に高次構造の異常なタンパク質が蓄積すると、この情報は核へ伝えられて小胞体に存在する分子シャペロンや酵素をコードする遺伝子の転写が活性化され、誘導された小胞体シャペロンの作用により小胞体内の恒常性が維持される。哺乳動物ではこの転写誘導機構に、ATF6経路とIRE1-XBP1経路という2つの経路が関与していることを我々は明らかにしてきた。 それぞれの経路に特異的な転写因子(活性型ATF6と活性型XBP1)のDNA認識様式の違いから、IRE1-XBP1経路が活性化されるとATF6経路では誘導されない遺伝子の転写が誘導され得る。このIRE1-XBP1経路に特異的な標的遺伝子を同定することは、小胞体におけるタンパク質の品質管理機構を理解する上で極めて重要と考えて検索した結果、EDEMという分子の転写誘導がATF6経路ではなくIRE1-XBP1経路により媒介されることを見いだした。EDEMは小胞体局在性の膜タンパク質で、小胞体において高次構造が異常になった糖タンパク質をユビキチン・プロテアソーム系を使って分解する過程に重要な働きをすることがすでに知られている。さらに、EDEMを転写誘導することができないIRE1ノックアウト細胞は、異常糖タンパク質を効率的に分解することができないことがわかった。 上記の結果と、ATF6経路の主要な標的は小胞体シャペロンであること、並びに、活性化機構の違いからXBP1の方がATF6より遅れて活性化されることを考え併せて次の結論を導いた。小胞体内に高次構造の異常なタンパク質が蓄積すると、細胞はまずATF6を活性化してシャペロンを誘導し、異常タンパク質の巻き戻しを計る。それでは不十分な場合にはXBP1を活性化し、シャペロンを誘導して異常タンパク質の巻き戻しを計るとともにEDEMを誘導して異常タンパク質の分解を始める。このように哺乳動物の小胞体ストレス応答は階層制を有し、状況に応じて層を転移させていくことを初めて実証した。
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