ATF6は、小胞体から核への細胞内情報伝達を担う小胞体膜結合性転写因子である。すなわち小胞体ストレス下で小胞体内に異常タンパク質が蓄積すると、ATF6はプロテオリシスを受け、膜から遊離した細胞質側ドメインが活性型の転写因子として核へ移行し、小胞体内の恒常性維持に働く分子シャペロン等をコードする遺伝子の転写を活性化する。ATF6を切断するプロテアーゼがゴルジ装置に存在するためATF6は、小胞体ストレスに応答して小胞体からゴルジ装置へ移行しなければならない。そこでまず、ATF6の切断を阻害するプロテアーゼ・インヒビターを探索し、セリンプロテアーゼ・インヒビターであるAEBSFで細胞を前処理すると、小胞体ストレスに応答したATF6の切断が阻害され活性型のATF6が生じないが、ゴルジ装置への移行は影響を受けないことを見いだした。つまり、小胞体からゴルジ装置への移行は切断とカップルしていないが、ゴルジ装置から核への移行には切断が必要であることを明らかにした。次にATF6は、分泌タンパク質の輸送に使われているのと同じシステムでゴルジ装置へと細胞内輸送されることを明らかにした。さらに、ATF6が活性化される小胞体ストレス下で、高次構造が異常になった分泌タンパク質や膜タンパク質は確かに小胞体内に留められるが、ATF6は選択的にゴルジ装置へと輸送されることを明らかにし、ATF6のゴルジ装置への移行と小胞体におけるタンパク質の品質管理とが両立することを証明した。また、正しい高次構造を形成している分泌タンパク質は小胞体ストレス下でも分泌されることを明らかにし、ATF6のみが小胞体ストレス下で輸送されるのではなく、小胞体ストレス下でも細胞内輸送システムは機能していることを示した。
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