小胞体における分泌系タンパク質の折り畳みを介助・促進する分子シャペロンや酵素の発現量は、小胞体から核への細胞内情報伝達を伴う転写誘導機構Unfolded Protein Response (UPR)により制御されている。申請者は、哺乳動物UPRに特異的に働く経路としてATF6経路とIRE1-XBP1経路を同定した。これまでに、活性型のATF6がシス配列ERSEを介して、専ら小胞体局在性の分子シャペロンや酵素の転写を活性化するのに対して、活性型のXBP1はシス配列ERSEだけでなくシス配列UPREをも介して転写を活性化すること、すなわちXBP1の方が標的遺伝子のスペクトルが広いことを明らかにしている。さらにこのようなXBP1特異的な標的遺伝子の一つとして、小胞体関連分解機構において重要な役割を果たすEDEMという分子を同定し、IRE1-XBP1経路が異常タンパク質の巻き戻しだけでなく、分解をも制御していることを見いだした。 今年度、IRE1-XBP1経路特異的に転写誘導される遺伝子としてCERD1(Derlin-2)とCERD2(Derlin-3)を同定したので、これらの分子が小胞体関連分解に関与するかどうか検討した。その結果、以下の点を明らかにした。 1)Derlin-2およびDerlin-3が膜を4回貫通する小胞体タンパク質であること 2)Derlin-2あるいはDerlin-3を過剰発現すると、異常糖タンパク質の分解を促進すること 3)IRE1ノックアウト細胞では、異常糖タンパク質の分解が抑制されること 4)Derlin-2あるいはDerlin-3をノックダウンすると異常糖タンパク質の分解が抑制されること これらの結果は、ATF6経路とIRE1-XBP1経路の使い分けが小胞体におけるタンパク質の品質管理に重要であることを示している。
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