分泌タンパク質や膜タンパク質の高次構造形成と品質管理の場である小胞体の機能に齟齬が生じ、小胞体内に高次構造の異常なタンパク質が蓄積すると、小胞体から核への細胞内情報伝達を伴う転写誘導機構Unfolded Protein Response(UPR)が活性化され、小胞体の恒常性が維持される。代表者は哺乳動物UPRに、ATF6経路とIRE1-XBP1経路が重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。ATF6は、プロテオリシスにより活性化される小胞体膜結合性転写因子である。一方、XBP1はIRE1依存的なmRNAスプライシングにより制御される転写因子である。 ATF6の切断は、S1PおよびS2Pというゴルジ装置局在性のプロテアーゼにより行われる。Chinese hamster ovary cellsには、S2Pを欠損する変異株M19が存在する。そこで、M19細胞を用いてATF6が活性化されないとどのような影響がでるか解析した。 まず、予想通りM19細胞ではATF6が活性化されないこと、小胞体シャペロンBipが誘導されないことを確認した。その結果、M19細胞では構成的に弱い小胞体ストレスがかかっており、ATF6は一部ゴルジ装置へと運ばれS1Pにより切断された状態でとどまっていること、IRE1が部分的に活性化されていることを見いだした。 XBP1のプロモーター上にも、小胞体シャペロンの転写誘導に関与するERSEが存在する。M19細胞では、小胞体ストレスに応答したXBP1 mRNAの転写誘導も低下していることがわかった。さらにM19細胞は、小胞体ストレスに対して感受性を示した。M19細胞にXBP1 mRNAを導入するとM19細胞は小胞体ストレス抵抗性になった。 以上の結果から、ATF6の活性化は小胞体シャペロンやXBP1の転写誘導を通じて小胞体ストレスから細胞を守るために重要であると結論した。
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