研究概要 |
蛋白質に機能を付与するという重要な役割を担っているのが分子シャペロン,シャペロニンである。本研究では大腸菌由来のシャペロニンであるGroEL/GroESの機能発現の詳細を主に調べた。GroELは変性蛋白質を効率よく'カゴ'の中に取り込み正しい構造形成を起こさせるために,変性蛋白質をGroELの頂上ドメインに結合したまま,蓋の役目をするGroESを同時に結合した新たなステップがあることを明らかにしてきた。今回,GroBLの機能発現の際に起こる各ドメイン(赤道ドメイン,中間ドメイン,頂上ドメイン)の詳細な構造変化を速度論的に明らかにするため,ストップドフロー装置を活用して調べた。その結果,ATPが結合すると,まず赤道ドメインの微細な構造変化が起こり,次いで頂上ドメインの変化が,最後に頂上ドメインと連動しながら中間ドメインの構造変化が起こることが,それぞれのドメイン内に蛍光プローブとなるトリプトファン残基を部位特異的に導入することで明らかになった。また,興味深いことは,これまで反対側のリングの動きと考えられていた変化が,シングルリングGroELで実験をした結果同様に検出されたことから,反対側のリングではなく,リング内の構造変化であることが明らかになった。 一方,シャペロニンの基質蛋白質にもなりうるオリゴマー酵素の耐熱性アスパルターゼのX線結晶構造解析とその安定性について調べた。耐熱性アスパルターゼは4量体からなり,常温のアスパルターゼの構造と比べて活性部位構成ループの温度安定性がかなり高いことが分かった。また,分子全体的にイオン結合が多く存在していることが安定性と耐熱性に大きく寄与していることが示唆された。また,コシャペロニンであるGroES 7量体の溶液構造安定性を小角X線溶液散乱法により詳細に調べた結果,7量体蛋白質は高濃度中でも一旦オリゴマーが解離し,構造を部分的にとった単量体が中間体として存在していることが明らかになった。GroES蛋白質は変性条件下でアミロイド線維を形成するので,この中間体の存在の確認は意味あるものと考えられた。
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