一般に、品質管理の一環として、不良タンパク質が認識されると熱ショック応答が引き起こされて一群の熱ショック蛋白質が誘導される。ポリグルタミン病においては凝集体形成と神経細胞死に対していくつかの熱ショック蛋白質が抑制性にはたらくことが相次いで報告されている。本研究は、ポリグルタミン病において熱ショック応答システムが病態の進行遅延、つまり凝集体形成抑制や細胞死抑制に生理的に働いているかどうかを明らかにするのがねらいである。 ポリグルタミン蛋白質GFP-Q81をヒトHeLa細胞にトランスフェクトして封入体を形成させる実験系を用いて、熱ショック蛋白質群と熱ショック転写因子の封入体形成に対する効果を調べた。Hsp70やHsp40を高発現させたHeLa細胞よりも活性型HSF1を発現させた細胞で封入体形成を抑制する効果が明らかに高いことが分かった。活性型HSF1を発現するアデノウイルスを作成して、感染が封入体形成に対する効果を調べたところやはり封入体を著明に抑制することが分かった。 次に、HSF1の遺伝子導入がハンチントン病モデルマウスの病態進行を抑制するかを明らかにする目的で、ハンチントン病モデルマウスの系統維持と、HSF1欠損マウスの脳での熱ショック蛋白質の発現などについて解析を行った。HSF1欠損マウスの脳は、脳室の拡大が見られたが、神経細胞での主要な熱ショック蛋白質の構成的な発現はほぼ野生型マウスの発現レベルと同等であった。今後、これらのマウスの交配を行って、熱ショック応答の生理的意義を明らかにする予定である。
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