細胞膜タンパク質は、小胞体において積み荷として選別され、さらにゴルジ体の最もトランス側に位置するトランスゴルジ(TGN)において、異なる輸送小胞へ選別されて細胞膜へ輸送される。これまでに、水疱性口内炎ウィルスの糖タンパク質(VSV-G)を細胞膜タンパク質のモデルとして、小胞体〜ゴルジ体間の小胞輸送はシグナル依存的な選択的輸送であること、および、VSV-Gの小胞体からの輸送シグナル(YxDxEシグナル)は、小胞体から発芽するCOPII輸送小胞へVSV-Gを濃縮していることを明らかにしてきた。そこで、本年度の本研究では、YxDxEシグナルの作用機構を明らかにする目的で、YxDxEシグナルを認識する分子の同定を試み、以下の結果を得た。1)酵母Two-hybrid法を用いて、アダプター複合体AP-3のδサブユニットをYxDxEシグナルに結合する分子として同定した。2)YxDxEシグナルとδサブユニットとの結合は、酸性のアスパラギン酸とグルタミン酸のみならずタイロシンにも依存した。3)δサブユニットのVSV-G結合領域を含む欠失変異体は、VSV-Gの小胞体〜ゴルジ体間輸送には作用せず、ゴルジ体〜細胞膜間輸送を特異的に抑制した。4)δサブユニットを欠失したMochaマウスから調製したfibroblastsでは、VSV-Gの小胞体〜ゴルジ体間輸送は正常で、ゴルジ体〜細胞膜間輸送に障害が認められた。5)VSV-Gは、アダプター複合体AP-3依存的にライソソームへ輸送されるLAMP1を細胞膜へミスターゲッティングさせた。これらの結果から、YxDxEシグナルは、小胞体においてはCOPIIコートを、TGNにおいてはアダプター複合体AP-3をシークエンシャルにそれぞれリクルートして、VSV-Gの細胞膜への輸送を制御していることが示唆された。このように、本年度の研究は予想以上に進展し、当初の目的はほぼ達成できた。
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