小胞体(ER)ストレスに対する哺乳動物細胞の小胞輸送システムの応答とそのダイナミズムを明らかにするため、われわれが独自に開発した「セミインタクト細胞系」及び「細胞内タンパク質動態可視化技術」をカップルさせたアッセイ系を駆使し下記の結果を得た。細胞の脂質代謝に関わるABCトランスポータの一つABCA1とその変異タンパク質(QR)のGFP融合タンパク質を恒常的に発現しているHEK細胞株を樹立しそれらタンパク質の動態を可視化解析した。その結果、ABCA1は細胞形質膜へ輸送され機能するが、QRはER内腔に留まりERのERAD経路によってプロテアソーム分解されることを見いだした(プロテアソーム阻害剤存在下でのQRのアグリソーム形成)。興味深いことに、QRは特定の細胞外ストレス(還元剤添加など)により、ERAD系から逃れ、通常の小胞輸送経路に乗ってゴルジ体→形質膜へと輸送されることを発見した。しかも、この輸送は、通常の分泌タンパク質が利用するCOPII小胞を介してERからERGIC(ER-Golgi中間構造体)を経由してゴルジ体、形質膜まで運ばれた。このER→ゴルジ体小胞輸送とERAD経路の選択の制御因子をセミインタクト細胞系などを用いて調べたところ、small GTP結合タンパク質の一つでるARF1のGTP活性化フォームが増加することによりERAD経路から小胞輸送経路へのスイッチが行われることを見いだした。これらの結果は、ERストレスが今まで知られていたERAD経路やUPD経路を活性化するだけでなく、新しく小胞輸送の活性化によって蓄積したタンパク質を細胞外へ先ずは吐き出すという回避経路を併せ持つこと、その制御には、ARF1またはCOPIと言うゴルジ層板間やゴルジ体→ERの逆行輸送に関わるとされる分子が関わっていることを強く示唆した。
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