NMRやμSRの測定によりスピン・トリプレット超伝導体であると考えられているSr_2RuO_4の超伝導状態が時間反転対称性の破れを伴うものであるかどうかを確認するため、微小ホール素子による局所磁場測定を行った。用いたホール素子は磁場感知部が5x5μm^2のものでり、試料の端に感知部を配置することにより自発磁化の発生にともなう局所磁場の検出を目指した。しかし、ゼロ磁場下での測定において0.1G以上の信号を現出することができなかった。この原因として時間反転対称性を破る状態が存在しないとも考えられるが、別の可能性として向きの異なるカイラルドメインからの局所磁場が打ち消し合い、ホール素子で感知されなかった可能性がある。カイラルドメインの大きさを見積もる有効な理論的枠組みはないが、逆にカイラルドメインの存在にも関わらず0.1G程度の磁場しか観測されないための、カイラルドメインの大きさを計算から求めた。簡単のためにカイラルドメインをストライプドメインとし、そのドメイン境界周辺に自発磁化の起因となる電流が対向して流れているとした。その結果、測定される局所磁場はカイラルドメインの大きさだけでなき、ホール素子の試料からの距離にも敏感に依存するが、1μm程度の現実的距離を仮定した場合、カイラルドメインの大きさは5μm^2よりはるかに小さくなくてはならないことが明らかとなった。 一方、局所磁化ヒステリシスの測定には磁束密度がゼロ、すなわちカイラルドメインが存在した場合、ドメイン境界が存在する時にのみ磁化が減少するという異常が系統的に現れることが明らかとなった。
|