研究概要 |
PrBa_2Cu_4O_8(Pr124)が有するCuOの2重鎖は、低温ではフェルミ流体的に振る舞うが、室温では1次元モット絶縁体にキャリアをドープした系として理解できる。本研究では様々な元素置換をした単結晶を育成し、CuOの2重鎖の振る舞いを中心として物性を調べた。 まず、CuサイトをZnで置換すると、CuO鎖方向(b軸方向)の抵抗率は上昇するが金属的伝導は保たれること、CuO鎖に垂直な方向(a, c軸方向)の伝導は阻害され、1次元的伝導を示す領域が低温側に延びることなどがわかった。光電子分光実験で測定された分散関係は、Zn置換による次元性の低下を支持している。一方、光学反射率測定から、Zn置換によりCuO_2面のキャリア濃度が増加したことが明らかになり、CuO鎖との間に電荷の再分配が生じた可能性を示している。さらに、磁気抵抗測定によりCuO鎖サイトの1次元-3次元クロスオーバーや、Zn置換による1次元性の強まりを明らかにした。次に、Ni置換ではCuO鎖に沿った抵抗率が低温で上昇するとともにCuO鎖に直交する伝導が抑制されることなどがわかった。これはNiがZnよりもCuO鎖サイトに置換されやすいことを反映していると考えられる。また、ホール係数の低温での増加も抑制され、広い温度範囲で負のホール係数が観測された。 一方、元素置換した単結晶の育成では、高温安定相の析出を避けるために必要な急冷過程の幅が拡大し、また、得られる単結晶が小さい。しかし、フラックス組成を様々に変えたところ、BaとCuを増すことで、124相と液相の温度差が縮まることがわかった。さらに、置換のない単結晶の格子定数の温度依存性を測定し、格子定数の温度変化が一度停滞する振る舞いが見られた。その温度は、α軸抵抗率に現れるピークとは約50Kの開きがあり、CuO_2面の反強磁性相転移温度とされている温度に相当する。
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