本特定領域研究において、精巣上体のタンパク質合成分泌活性に対するダイオキシンの影響を解析しできた。これまでに、ダイオキシン投与マウスにおいて、エストロゲンの支配のもとに精巣上体から合成分泌されて成熟過程の精子の表層に結合するラクトフェリン、および、16kDaコレステロール結合タンパク質(16kDa-ChBP)の分泌活性が低下していることを明らかにした。特に、16kDa-ChBPについては精子成熟やcapacitationにおける精子表層のコレステロールレベルの低下を担うタンパク質であることを示唆する結果を得ており、その発現がダイオキシンによって影響されていることは、ダイオキシンの精子の受精活性に対する作用を考える上で重要であると考えられる。また、精子表層のコレステロールレベルの低下が、精子細胞内の情報伝達系の引き金になっていることが示唆されている。このことは、ダイオキシンによる16kDa-ChBPのレベルの低下が、精子細胞内の情報伝達系にも影響を及ぼしていることを推測させる。そこで、ダイオキシン投与マウスの精巣上体精子のタンパク質リン酸化活性について解析を試みたところ、ダイオキシンの単回経口投与によりマウス精子タンパク質のチロシンリン酸化レベルの低下が認められたが、特に22kDaおよび28kDaタンパク質のリン酸化レベルの低下が著しかった。22kDaタンパク質は、N-末端アミノ酸配列の解析からリン脂質依存性グルタチオンペルオキシダーゼであることが明らかとなった。 ダイオキシン投与により精巣上体分泌液内の主要なコレステロール結合タンパク質である16kDa-ChBP発現が滅少し、精巣上体における成熟に伴うマウス精子のコレステロールレベルの低下が阻害されること、ある種のタンパク質のチロシンリン酸化の調節が乱されている可能性があることが明らかになった。
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