研究概要 |
造礁サンゴに対するトリブチルスズ(TBT)の影響を調べるために、TBTを100ng/L, 1μg/L含む海水中でアザミサンゴを3週間飼育して影響を調べた。100ng/LのTBTへの曝露では、3週間たっても目立った変化は観察されなかった。1μg/LのTBTへの曝露では、約1週間後から触手の伸長が観察されなくなり、サンゴの健康状態の悪化が示された。また、目立った白化は観察されなかったがサンゴの色彩が黒くなっていることから、共生藻がサンゴ内部で死滅している可能性が示唆された。今後、光合成活性とクロロフィル量の測定を行い、このことを調べる予定である。 海洋汚染による造礁サンゴの性決定の攪乱を調べるための分子マーカーを得る目的で、卵タンパク質をコードするcDNAのクローニングを行っている。雌雄同体種シナキクメイシの卵に含まれる2つの主要タンパク質の1つ、FcEP-1をコードするcDNAのクローニングを行い、全一次配列を推定した。脊椎動物のビテロジェニンとの間にわずかではあるが、配列の類似が見られた。また、逆転写PCR解析により、このmRNAは卵形成の初期から放卵時まで継続的に発現されることが示された。このことから、卵タンパク質遺伝子の発現は卵形成の好適な分子指標となると考えられた それに加えて、雌雄異体種アザミサンゴの卵から可溶化・抽出したタンパク質につき、同様の解析を行っている。アザミサンゴの卵タンパク質のcDNA配列が得られたら、それを基に逆転写PCR法により、この遺伝子を発現する雄個体が見られるかどうかを調べる予定である。この種類は、都市港湾部でも棲息が見られるので、汚染による性成熟の攪乱を調べる好適な系となることが期待される。
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