研究概要 |
ビスフェノールA(BPA)によるセルトリ細胞障害誘導機構を詳細に明らかにするために,BPA処理後の遺伝子発現変化の時間経過をcDNAマイクロアレイを用いて検討した. 1.TTE3細胞の細胞生存率と細胞内Ca^<2+>濃度に対するBPAの作用 BPA(200μM)は濃度依存的かつ時間依存的に細胞障害を惹起し,3,6,12と24時間BPA処理細胞の細胞生存率は,各々91,73,70と59%であった.また,BPA(100-400μM)により濃度依存的に細胞内Ca^<2+>濃度が一過性に上昇し,200μM BPAによりERストレスのマーカー遺伝子BipGRP78が時間依存的に増加した.以上の成績と以前の報告から,TTE3細胞においてBPAはERのCa^<2+>-ATPase阻害作用により一過性の細胞内Ca^<2+>濃度上昇とそれに引き続いてERストレスが誘導されることが示された. 2.BPAによる細胞障害誘導時に変化する遺伝子群の解析 200μM BPA処置細胞の遺伝子発現変化をマイクロアレイを用いて経時的に観察した.31個の遺伝子発現の上昇が認められた.これらの遺伝子は,大きく1)時間依存的に増加する遺伝子,2)6時間後に発現が最大になる遺伝子,3)12時問後に発現が最大になる遺伝子,に分類された.一方,本条件下では発現が減少する遺伝子は検出できなかった.これらの遺伝子の中でchopが薬物処理直後から最も大きく変動する遺伝子であることが判明した.また,myc oncogene, fra-2とornithine decarboxylaseの顕著な発現上昇も認められた.これら4つの遺伝子の発現量の上昇はTaqMan定量的PCRで確認された. 3.BPAによる細胞障害におけるchopの役割解析 BPAによる細胞障害におけるchopの役割を解析する目的で,chopの遺伝子発現を抑制したchopR細胞を構築した.ChopR細胞ではmock細胞に比べてBPAによるchopタンパク質の発現誘導が約半分に抑制された.同細胞において,BPAによる細胞障害は有意に抑制されたので,BPAの細胞障害に少なくとも一部chopが関与していることが示された.
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