研究概要 |
いわゆる「環境ホルモン」、内分泌撹乱物質による生殖能力や次世代への影響は、人類を含めた数多くの生物の存続を危ぶむ問題であり、基礎的な研究の必要性が高まっている。これらの原因として考えられているものは主に人工の化学物質であるが、これ以外にも約20種類の植物由来のエストロゲン様物質(Phytoestorogen)がその作用を持つといわれている。本研究は、内分泌撹乱物質の影響が強く現れると考えられる胎児期、新生児期に着目し、遺伝学的にヒトに最も近い実験動物のサルを用いて、これらの植物由来のエストロゲン様物質が、サル胎児、成長期や性成熟過程におよぼす影響等、生殖内分泌系に及ぼす影響を、発生生物学的、内分泌学的、行動学的に調べ、ヒトへの影響を推察することを目的とする。 本年度は、正常性周期をもつカニクイザルに植物由来のエストロゲン様物質の一種であるダイゼインを30日間連続投与した。これらのサルにおいて、投与前、投与中、投与後、経時的に採尿を行い、ステロイドホルモンの代謝産物である尿中estrone conjugate (E1C), pregnandiol glucuronide (PdG)および尿中follicle stimulating hormone (FSH)について酵素免疫測定法を用いて測定し、性周期の変化およびホルモン動態の変化を調べた。また、月経周期および月経量についても観察を行った。その結果、生殖関連ホルモン動態の変化や月経周期の遅延、卵胞期の延長、LHサージの抑制などが観察された。これらにより、ダイゼイン投与後、これらのサルは言わば発情持続状態となり、結果として排卵が抑制されることが分かった。これとは別に、非妊娠カニクイザル5頭にジェニステイン5mgを月経初日から30日間経口投与し、尿中E1C, PdG, FSHを同様の方法で測定した。その結果、ジェニステイン投与により、カニクイザルの性周期が延長すること、とくに黄体期が延長することが分かった。 これら慢性実験に加え、急性実験としてアカゲザルにDESを経口投与し、ステロイドホルモンおよびインヒビンを指標とした内分泌学的な解析、脳はじめ全身臓器を用いて、ステロイドレセプターはじめ組織学的解析を行っている。
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