研究概要 |
当該研究について,交付申請で記載した研究実施計画の各項目(2点)について検討を行い,下記に示す研究実績を得た。 1)溶媒インプリント法の確立 選択的な分子認識能を付与する「分子インプリント法」において,実際に認識のターゲットとする分子を鋳型分子に用いることが不可能な場合,構造や分子の大きさが鋳型分子に類似した「溶媒」を疑似鋳型として用いる方法が本溶媒インプリント法であるが,例えば,ポリ塩素化ビフェニル(PCB)の認識においては,対応する塩素置換位置に塩素原子の替わりにメチル基が置換した疑似物質を用いることで,PCBの同族体の認識が可能となる。本年度は,この概念を内分泌攪乱物質の一つであるとされるビスフェノールAに適用し,無置換のビスフェノールAに関してはt-ブチルフェノールが擬似的鋳型として有効であることを見いだし,水系においては,千倍を遙かに超える選択的濃縮が可能であることを示した。また,環境中で二次的に発生するとされる塩素置換ビスフェノールAにおいても,塩素置換位置にメチル基を有するフェノール誘導体を疑似鋳型とすることで,容易に塩素置換ビスフェノールAの同族体の選択的認識が可能となった。 2)溶媒インプリントポリマーによる潜在的毒性評価 溶媒インプリントポリマーの調製には,特に今回の場合,塩素置換ビスフェノールAの場合には,塩素の置換位置にメチル基を持つフェノール誘導体が疑似鋳型として利用可能であることが明らかとなった。このことを基に,塩素置換ビスフェノールAの同族体認識において,生物化学的な評価から毒性の高いとされる同族体の塩素置換位置に相当する部位にメチル基を有するフェノール誘導体を用いて溶媒インプリントポリマーを調製した。 これによる塩素置換ビスフェノールAの認識評価を行ったところ,生物化学的な毒性認識と同様に,毒性が高いとされる同族体に関して高い認識能を示すことが明らかとなった。このことは,作成した人工レセプターが,化合物の形,大きさ,官能基を見分けていることを示しており,他の潜在的毒性物質の認識にも応用できる。 このように,当初設定した目標をほぼ達成することができた。
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