研究概要 |
内分泌攪乱物質(endocrine disruptor,ED)は世代を超える影響を生物に与えることが予想され、この作用点は多岐にわたっている。クロマチンはDNAを核内に収納する機能だけでなく、遺伝子機能制御にも関与している。クロマチン制御のひとつであるヒストン修飾は遺伝子発現制御に非常に重要であり、この異常は発生などに影響を与える。なかでもヒストンアセチル化は遺伝子活性化に強く関与している。性ホルモン受容体はEDの標的分子として注目されているが、これだけではEDの作用機構は説明できない点がある。そこで、ED作用機序を解析する目的で、ED容疑物質のヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase,HAT)活性に対する影響を検討した。 ラット肝臓核抽出液から粗精製したHAT分画、ラット肝臓由来ヒストン、トリチウム標識アセチルCoAを反応後、標識されたヒストンの放射活性によりにHAT活性を測定した。この反応系に試験化合物を添加し、HAT活性に対する影響を調べた。約20種類のED容疑物質を調べたところ、巻き貝に繁殖障害を引き起こす有機スズ化合物であるトリフェニルスズ(TPT)とトリブチルスズ(TBT)が濃度依存的にHAT活性を上昇させた。TPTとTBTは生体内において、ジフェニルスズ(DPT)、ジブチルスズ(DBT)、モノフェニルスズ(MPT)、モノブチルスズ(MBT)、無機スズに代謝される。これらの化合物のHAT活性に対する影響を調べた結果、DPT、DBTはHAT活性を促進したが、モノ体および無機スズは促進しなかった。 有機スズ化合物が活性を促進するHATを同定する目的で、陰イオン交換カラムによりHATを分離し、その分画を用いて検討した。その結果、有機スズ化合物はすべてのHATの活性を促進するのではなく、特定のHATの活性を促進する可能性が示された。以上の結果より、エストロゲン受容体などの核内ホルモン受容体以外にHATがEDの標的分子になる可能性が示された。
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