船底防汚塗料として広く使われていたトリブチルスズは、海の貝類のインポセックスの原因物質であり、界面活性剤の分解産物であるノニルフェノールは魚類に対する環境ホルモン物質として特定された内分泌撹乱化学物質である。これらの物質が哺乳類に対して環境ホルモン作用を持つかどうかは特定されていない。この研究では、トリブチルスズとその類縁物質、およびノニルフェノールによる哺乳類副腎のステロイドホルモン分泌への影響を調べるため、まず動物の副腎皮質培養細胞を用いてホルモン合成への影響を詳しく調べ、ついで脳への影響の検討を試みた。 ウシ副腎皮質束・網状細胞を初代培養し、0.1nM〜1mMのトリブチルスズ、トリフェニルスズ、ジブチルスズ、ノニルフェノールを24時間、続いて同じ濃度の環境ホルモン物質と1nMの副腎皮質刺激ホルモンを24時間作用させた。細胞が分泌するステロイドホルモンをHPLCで、蛋白質量をWestern blottingで、mRNA量をリアルタイムRT-PCR法で定量した。 海生哺乳類に高濃度で検出されるトリブチルスズ、ジブチルスズは、野生生物の体内に見られる濃度以下の10^<-8>M程度でステロイドホルモン合成酵素のうちP450_<c21>、P450_<11β>のmRNA、蛋白質量を低下させ、主要な副腎皮質ホルモンであるコルチゾルの分泌を抑制し、男性ホルモンの前駆物質である17α-水酸化プロゲステロンの分泌を活性化した。陸生哺乳類の体内で見られるジブチルスズもほぼ同じ濃度で同様の効果をもたらした。ノニルフェノールは1μM程度で同様の効果をもたらし、それはエストロゲンレセプターを介さない、未知の機構による影響であった。 現在ラット脳に対するこれらの物質の影響を調べるため、リアルタイムRT-PCR法でステロイドホルモン合成酵素のmRNAを測定する手法を開発中である。
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