内分泌攪乱化学物質の毒性メカニズムを解明するために、両生類における性転換現象に着目した。内分泌攪乱化学物質は生体内の正常なホルモン作用を乱すことにより毒性作用を持つと考えられている。毒性作用の中で雄を雌化する毒性メカニズムを知るためには、まず雄化のメカニズムを知る必要がある。一方、両生類では幼生期に性ホルモンを処理することにより、雄から雌、または雌から雄への性転換が誘導されることが知られている。本研究では、最初にアンドロゲンにより誘導される雄への性転換分子メカニズムを解明するために、性転換過程において発現が変化する遺伝子を網羅的に解析した。さらに、雄への性転換を誘導した後にエストロゲン処理を行い、精巣分化に対するエストロゲンの影響を組織学的に解析した。材料には、性ホルモン投与により雄と雌への両方向に性転換する広島県産のツチガエル幼生を用いた。テストステロン・プロピオネート(TP)処理により遺伝子発現量が増加または減少すると思われる461個のcDNAバンドを回収し、335個のcDNAバンドについて塩基配列を解析することができた。組織学的解析によりTPの腹腔内注射後32日目までに、肥大卵母細胞で満たされた卵巣は精巣への分化転換を完了することが明らかになった。そこで、TP腹腔内注射後、エストラジオールベンゾエイト(EB)を含んだ飼育水中で飼育したところ、精巣への分化転換が抑制された。RT-PCR/サザンブロット法およびRT-PCR法による解析の結果、エストロゲン受容体遺伝子は性転換過程において常に発現していることが確認された。今後、この性転換モデルを用いて、内分泌撹乱化学物質の毒性メカニズムを解析する予定である。
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