研究概要 |
ダイオキシンは生体に対して、種々の毒性を及ぼす。毒性のうち、発生毒性として、マウスの胎仔に口蓋裂・腎孟拡大を誘発する。今回の研究では、この誘発機序を検討した。 1)腎孟拡大を評価するための、基礎データとして、尿管の上皮細胞の細胞回転を明らかにした。すなわち、今までこの上皮は、移行上皮といわれてきたが、微細形態学的・組織化学的に検討したところ、重層扁平上皮であることが明らかとなった。 2)ダイオキシンは、その生体毒性を発揮するときに、ダイオキシン受容体(アリール炭化水素受容体、Aryl hydrocarbon receptor,略してAhR)と複合体を形成し、核の中に入って、DNAのダイオキシン反応配列を認識し、これと結合し、下流の遺伝子発現を起こすとされる。下流の遺伝子の中には、チトクロームP4501A1の他、ダイオキシン受容体抑制因子(ALR repressor,略してAhRR)がある。AhRRはAhRの作用を抑制する作用がある。今回、AhRR遺伝子欠損マウスを作製した。このマウスをC57BL/6Jマウスにもどし交配を行った。AhRRが失われると、ダイオキシンの作用は増強すると予想される。この作業仮説のもとに、ダイオキシンが口蓋裂・腎孟拡大を起こす現象に及ぼすAhRR遺伝子欠損の影響を評価する作業を続けた。明確な結論はまだ出ていない。実験は、AhRR+/-ヘテロマウスの雌雄を交配して(膣栓発見日を妊娠0日)、妊娠12.5日にダイオキシンを投与して、母体を妊娠18.5日に殺し、胎仔の口蓋・腎孟を観察した。胎仔の遺伝子型は+/+,+/-,-/-の3つの形を持つ。野生型の胎仔とAhRRノックアウトホモの胎仔の、口蓋裂・腎孟拡大の感受性を比較すると、ダイオキシンにより、AhRRノックアウトホモの胎仔の感受性が増加していることが予想される。現在、実験を展開している。
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