内湾域に棲息する小型甲殻類を用いた内分泌攪乱物質影響評価に関するプロトコルの開発を実施するために、まず、第一段階として、内湾域に棲息するワレカラ類の飼育方法に関する実験を実施した。その結果、これまでのワレカラ類の飼育実験のように野外から採集した紅藻類を用いなくても、付着基質としてテフロンシートを使用すれば完全飼育が可能であることが判明した。そこで、内湾域に棲息するワレカラ類のうち優占種であるトゲワレカラCaprella scauraの飼育実験を行った。その結果、20℃の世代期間が31日であること、雌は成熟後も死亡するまで7-10日間隔で脱皮を繰り返すが、雄は死亡前は40日以上も脱皮せず最終齢があることが明らかになった。次にトゲワレカラを用いトリブチルスズ(TBT)の影響評価に関する実験を実施した。孵化後の幼体を20℃で0〜100ng TBTCl/Lの3段階のTBT濃度に暴露したところ、10ng及び100ng TBTCl/L区で生残率が低下することが判明した。 また、瀬戸内海等の内湾域に棲息するワレカラ類のうち最も大型になるマギレワレカラCaprella decipiensを用い、マイクロサテライトマーカー座の開発を行った。マギレワレカラの全DNA配列におけるマイクロサテライト領域の割合は0.4%と極めて少なく、GA/CTタイプが最多で約50%を占め、哺乳類、魚類等で最も多いとされるGT/CAタイプは少なかった。また、6つのマイクロサテライトマーカー座において多型を示す増幅断片が得られ、ワレカラ類の集団解析に有効であると考えられた。
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