内湾域に棲息する小型甲殻類を用いた内分泌攪乱物質影響評価に関するプロトコルの開発を目的として、本年度は、大阪湾から採集したトゲワレカラCaprella scauraの孵化した幼体を用い、45日間の低濃度のノニルフェノール(4-nonylphenol)の慢性毒性実験を行った。暴露期間中の生残率はコントロールでは97%であったが、1および10μg/Lでは80%、100μg/Lでは24%まで低下し、1000μg/Lでは実験開始2日目で0%になり、いずれの実験区もコントロールとの間に有意差があった。100μg/Lでの生残率は孵化後5-10日の期間にII齢またはIII齢の時期に急激な低下が認められ、約10日後には実験開始時のほぼ50%になった。以上より、45日間のノニルフェノール暴露による生残率の減少を引き起こす最小影響濃度(LOEC)は1μg/L以下と推定され、ノニルフェノールはメダカに関する毒性影響(環境省2001)の最低値の約1/10の濃度に相当した。 また、トゲワレカラのマイクロサテライトマーカー座の開発を行った。トゲワレカラの全DNA配列におけるマイクロサテライト領域の割合も、昨年、解析を行ったマギレワレカラと同様に0.4%と極めて少なく、GA/CTタイプが最多で約50%を占めた。また、3つのマイクロサテライトマーカー座において多型を示す増幅断片が得られ、日本各地の6地点から採集したトゲワレカラの多様性解析を実施した。その結果、大都市近郊の大阪湾等ではアリル数が5.0と低く、環境ホルモンや埋め立て等の生息地の改変により、トゲワレカラの遺伝的多様性が低下していることが明らかになった。 以上より、トゲワレカラは、内分泌攪乱物質の影響評価に適した海洋生物であり、バイオアッセイのモデル生物として有望であることが明らかになった。
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