研究概要 |
性ホルモンは生殖腺刺激ホルモン(FSH, LH)合成の重要な調節因子である。そのため、性ホルモン様作用をもつ化学物質がGTH合成の撹乱を介して生殖腺の発達に影響を及ぼす可能性がある。本研究課題ではこれまで、ビスフェノールA(BPA)およびp-ノニルフェノール(NP)のGTH合成に対する影響を解析してきたが、その程度は非常に小さいものであった。この結果は、ある程度成長した個体のGTH合成に対するEDCsの影響はさほど大きくないことを示唆している。そこで本年度は、性分化期における女性ホルモンおよびEDCsの曝露が成長した個体のGTH合成にどのような影響を及ぼすのかを遺伝的コイ全雄群を用いて解析した。 2001年および2003年に雄性発生により作出した超雄(YY)と通常雌(XX)との交配により遺伝的全雄(XY)コイ個体群を作成した。孵化後約1ヶ月目から6ヶ月間、薬剤(エストラジオール-17β(E2)あるいはNP)をそれぞれ種々の濃度で含有させた餌を与えることにより曝露を行った。曝露終了後は薬剤無添加の餌を与え、通常条件にて飼育した。2003年の個体群については曝露期間中および期間後、2001年の個体については2年後の生殖腺発達が認められる期間にそれぞれサンプリングを行い、FSHβおよびLHβ mRNAの発現レベルを測定した。 稚魚期(性分化期)の個体へのNPあるいはE2の曝露により、LHβ mRNA発現量が曝露薬剤の濃度依存的に増加した。この結果は、これまで成魚を使った試験により得られた結果とほぼ同様であり、性分化期の個体の生殖腺刺激ホルモン合成にもこれら物質が影響を及ぼすことが明らかとなった。2001年度の曝露個体を解析した結果、NP投与群でLHβおよびFSHβ mRNA発現量の双方が(特にFSHβ mRNA発現量)対照群と比較して低レベルであった。同様の解析において、E2曝露群ではそのような変化は認められなかった。これは、NPの持つ高い毒性が脳下垂体のGTH産生細胞等に何らかの不可逆的影響を及ぼした結果である可能性が考えられた。
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