目的 エストロゲン類似内分泌撹乱物質の哺乳類卵母細胞に対する作用を調べるために、エストロゲン(17β-estradiol ; E2)のマウス未成熟卵母細胞の自発的カルシウム振動に対する効果を調べた。 方法 ICR雌マウスを用い、卵巣の卵胞を破砕して卵母細胞を採取した。卵母細胞をカルシウム結合蛍光色素Fura-2 AM(Molecular Probes)で染色し、顕微鏡下で蛍光による自発的カルシウム振動測定と明視野の形態変化観察をおこなった。カルシウム蛍光測定には高速カルシウム蛍光解析装置Argus HiSCA(浜松ホトニクス)を用いた。最初に20-40分、卵培養液(M2)を潅流し、その後、様々な濃度のE2(1nM-10μM)を含むM2を潅流した時のカルシウム振動の変化を測定、解析した。各E2濃度による極体形成の阻害効果についても調べた。 結果と考察 1、周期的カルシウム振動を示す卵母細胞が観察された。 2、エストロゲンはマウス未成熟卵母細胞に対して自発的カルシウム振動を抑制することがわかった。その抑制はE2の潅流を始めてから数分から20-30分の間でおこりE2濃度依存性を示した。 3、カルシウム振動が完全に抑制されなかった卵母細胞でも、振動のパターンに乱れが観察された。 4、卵母細胞膜を透過しないE2-BSAを潅流したところ、カルシウム振動に変化は見られなかったことから、E2による抑制は細胞内受容体を介するものと考えられる。 5、カルシウム振動を示した卵母細胞の方がその後の成熟分裂に移行する割合が有意に高いことが判明した。 6、卵母細胞から排卵を経て受精に至るカルシウム振動はE2濃度による制御を受けているという作業仮説を立てた。 今後は1、エストロゲン以外の内分泌撹乱物質の作用を調べる。 2、作業仮説の証明とともに未成熟卵母細胞のカルシウム振動機構について調べる。
|