近年、海産生物から新規な構造および強力な活性を有する多元素環状化合物が多数見出されている。この中で、ピンナトキシン、スピロリド、ギムノジミンは含窒素スピロ環状イミンを有する大環状化合物であり、その特異な構造と強力な毒性により広く注目を集めている。いずれも分子内Diels-Alder反応のエキソ付加にて生合成されていると考えられ、その毒性発現は環状イミン部位に起因していると推測されているが、天然界から微量しか単離されていないため詳細は不明である。このような新規海産毒は地球温暖化に伴う海洋生物の生態分布の変化が要因とも言われ、毒の機能解明だけでなく環境対策の観点からも人工合成を含む化学的解明が切望されている。我々はこれらの海洋天然物の不斉全合成を目標に研究を進めており、既に共通部位である含窒素スピロ環状骨格の構築法を見出した。すなわち、基質として金属原子に二座配位可能なラクタム誘導体を用い、不斉銅触媒下にてDiels-Alder反応を行うと、高エナンチオ選択的かつ高エキソ選択的に反応が進行し、望む含窒素スピロ環状骨格を得ることに成功した。ピンナトキシンの合成に関しては、本年度は得られた含窒素スピロ環状化合物の官能基を変換し、大環状骨格を構築することに焦点を当てて検討した。また、スピロリドの合成に関しては三環性アセタール部位の骨格構築を検討した。この結果、直鎖トリケトン体を酸触媒下で環化反応を行うと望む三環性アセタール体を収率良く得られることを見出した。スピロリドは未だに構造不明の部位があり、今回の手法を展開し、異性体を合成することで、その立体構造の決定を検討するつもりである。
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