研究概要 |
チイレンは炭素-炭素二重結合と硫黄原子より構成される4π電子型の三員環不安定中間体であり、これまでに単離された例はない。著者らは、ジ(1-アダマンチル)アセチレン(1)とSCl_2との反応を利用した2,3-ジクロロチイラン(2)を経由するチイレン1-オキシド(3)の合成法を開発している。本研究では、(3)の硫黄上の酸素の除去によるチイレン(5)への変換を検討した。その結果、還元剤としてLawesson試薬(LR)を使用した場合に思いがけない発見に遭遇した。すなわち、(3)を室温でCS_2中、LRで処理すると、s-trans-α-ジチオン(7)が紫色の結晶として単離された。本化合物は、チオカルボニルの炭素上の置換基が炭素置換基であるα-ジチオンが単離された最初の例である。本反応では意図したチイレン1-スルフィド(4)経由によるチイレン(5)[あるいはビラジカル等価体(6)など]に由来する生成物は観測されない。(7)はその互変異性体ジチエット(8)より熱力学的に不安定であり、s-cis-α-ジチオン体(9)を経由して室温でゆっくりと(8)に異性化する。著者は、先に(1)と単体硫黄との反応による(8)の生成を報告している。現在、(7)の生成機構の詳細について検討中である。なお、本反応をDMADの存在下に行うとジメチル4,5-ジ(1-アダマンチル)チオフェンジカルボキシラート(10)が収率よく生成する。 また、プロパルギルアルコール誘導体とSCl_2の反応により、硫黄上が未酸化の1,2-オキサチオール類の合成に初めて成功し、その化学的性質を解明した。
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