研究概要 |
遷移金属錯体を反応剤または触媒とするアルケンおよびアルキンの環化カップリング反応は、複雑な環状化合物を選択的に合成するもっとも有用な方法である。本研究では、遷移金属と錯形成しやすい硫黄原子をヘテロ原子として導入したアルキンチオラートSC≡CRに着目し、これまでにジルコニウムやニッケル錯体を合成し、それらのアルキンチオラート部位がカップリング反応をすることを見いだしている。そこで、後周期遷移金属であるロジウムおよびイリジウムのビスアルキンチオラート錯体の合成およびカップリング反応を検討した。 アルキンチオラートのアルカリ金属塩MSC≡CR(M=Li,Na)とCp^*Rh(PPh_3)Cl_2の反応によって目的のビスアルキンチオラート錯体Cp^*Rh(PPh_3)(SC≡CR)_2(R=Ph(1a),^tBu(1b),SiMe_3(1c),C≡CPh(1d))をそれぞれ高収率で合成した。同様にイリジウムビスアルキンチオラート錯体Cp^*Ir(PPh_3)(SC≡CPh)_2(2)を収率96%で得た。 ロジウム錯体1aおよびイリジウム錯体2をトルエン中で加熱したところ、C≡C結合の分子内カップリング反応が進行しメタラシクロペンテンジチオン錯体がほぼ定量的に生成した。 カップリング生成物3のメタラサイクル部位はリチウムナフタレニドおよびヒドリド還元剤によって容易に還元を受け、メタラシクロペンタジエン錯体Cp^*M(PPh_3){κ^2(C,C)-C(SH)=CPh-CPh=C(SH)} (M=Rh(4a),Ir(4b))が得られた。錯体1aの速度論的解析より、カップリング反応は分子内で進行していることを確認した。また、このメタラサイクルは高い求核性も示し、メチルトリフラートとの反応ではベンゾチオフェンを含む3種の錯体が生成した。
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