本研究では、多元素環状化合物合成手法の確立のための新概念として、ヘテロ原子化合物の複合型遷移金属触媒反応系と複合型ラジカル反応系を設計し、複数のヘテロ原子官能基の各種不飽和結合への高選択的導入を系統的に調べ、これを環化反応に応用することにより、直截的な多元素環状化合物の合成手法を確立することを目的とする。本年度は、複合型遷移金属触媒反応系について検討した。 (1)硫黄官能基の不飽和結合への高選択的導入を伴うカルボニル化法の開発:一酸化炭素加圧下、チオールのアセチレンへの付加カルボニル化を取り上げ、詳細にカルボニル化触媒について検討したところ、コバルト触媒を用いた場合に水素とチオエステル基が位置選択的に導入されたヒドロチオカルボニル化生成物が得られること、さらに興味深いことに反応条件を変化させることにより硫黄官能基の導入を伴うダブルカルボニル化が位置選択的に進行することを見い出した。次にこれらの複合型カルボニル化法を用いて環化反応を検討したところ、アセチレンアルコールを基質に用いた場合に硫黄官能基とカルボニル基の導入を伴う高選択的な環化反応を見い出した。 (2)リンおよびセレン官能基の不飽和結合への高選択的導入法の開発:周期表で硫黄と隣接するリンおよびセレン化合物の遷移金属触媒系の開発を検討した。まず一酸化炭素非共存下での付加反応について調べたところ、ジホスフィンではアセチレンの水素が水素源となる位置選択的なヒドロホスフィネーションを見い出した。一方チオールの付加に比べて、同族のセレノールの付加は一般に選択性に乏しいが、ピリジンなどのアミン系配位子を用いることにより、高選択的にマルコフニコフ型付加体を与えることを明らかにした。さらに一酸化炭素共存下でのセレノールの反応では、白金触媒を用いた場合にセレノホルミル化が進行することを見い出した。
|