研究概要 |
これまでに、ビチオフェンのβ,β-位をケイ素で架橋した構造を持つジチエノシロール(DTS)およびジチエノジシラシクロヘキサジエンの合成と特性評価を行い、これらが低いLUMOによる高い電子受容性をもつこと、電界発光(EL)素子の電子輸送材料として有望であることを見いだしてきた。DTS(1)は2つのチオフェン環がシロール環と縮合した環系を持っているが、他のヘテロ環が縮合した環系にも興味がもたれるので比較検討することを計画した。 新規シロール類として、ジ(ベンゾチエノ)シロール(2)およびジインドロシロール(3)の合成を行った。化合物2および3は対応するジリチオ化物とジフルオロシランとの反応により合成できた。これらの化合物1-3の物性を、実測の分光学的および電気化学的性質と、MO計算結果から見積もられた軌道レベルとの比較を通じて評価した。MO計算は、ケイ素上の置換基を全て水素で置き換えて簡略化したモデルを用い、HF/6-31Gレベルで行なった。その結果、ベンゾチオフェン環が縮環した2は予想通り低いLUMOを持つが、インドール環を有する3はかなり高いHOMOを有することが明らかとなった。 また、ジチエノシロールにメチルチオ基を導入したビス(メチルチオ)DTSを合成し、さらに、これを順次酸化してビス(メチルスルホキシ)およびビス(メチルスルホニル)誘導体に導くことにも成功した。これらの誘導体では、側鎖のS原子の酸化状態が増すにつれて徐々に共役が短くなってくることを見出した。DTS環系の電子状態のチューニングという意味で興味深い。その他にも、各種のケイ素架橋ビチオフェン誘導体を合成することに成功している。今後、これらの、EL素子材料などとしての性能を評価して行く予定である。
|