研究概要 |
エンインアレンの芳香環化反応によって生じるビラジカルは一重項ビラジカルであることから高いZwitterion性を有することが知られている。このビラジカルはベンジル位の置換基によってその反応性が大きく変わることを我々は見出しており、それを用いて幾つかの生体内炭素ビラジカル発生源を開発してきた。今回は、(1)求核試薬存在下での芳香環化反応、(2)ビラジカルの分子内付加反応を利用した複素環化合物の合成の2点を中心に検討した。 1.10員環含硫黄エンジイン化合物がトリエチルアミンなどの塩基存在下で、エンインアレンを生じ、芳香環化反応を起こすことは既に報告しているが、今回、この反応を1級アミンの存在下で行ったところ通常の芳香環化反応は全く起こらず、1級アミンが三重結合に付加しながら環化反応が起き、芳香族アミン誘導体が得られた。反応機構の詳細は現在検討中であるが、「塩基促進芳香環化反応」が起きていると考えている。 2.α,3-デヒドロトルエンビラジカルは分子内に反応性の異なる2つのラジカル種(σ-ラジカルとπ-ラジカル)を有することから、分子内でのラジカル補足反応において特異な反応性を示すことが期待される。分子内にアジド基を有する開環系含硫黄エンジイン化合物の芳香環化反応ではPhenanthridine誘導体が得られると考えていたが、予想に反してスピロ環骨格を有するイソインドール類が主生成物として得られた。この化合物は芳香環化によって生じたビラジカルのσ-ラジカルが1,5-shiftを起こし、アジドの付け根の炭素にラジカルがシフトした後に、π-ラジカルがパラ位でアジドに付加し、脱窒素が起きることによって生じたと考えられる。
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