自己組織化により作り出す超分子金属錯体は、空間の形状や大きさを分子レベルで自在にコントロールでき、また一度組みあがった骨格は高い安定性を有することから、機能物質としての役割が期待されている。しかし、高度に制御されたキラルなナノ空間を不斉合成に利用して成功した例はない。このような超分子の細孔内を反応場として有効に活用できれば、回収、再利用が可能で環境負荷の小さな優れた触媒が開発できると思われる。本研究において、触媒のパーツとなる、ランタンイオン、多方向伸展性スペーサー装着キラル有機配位子、および適切なアキラル配位子類を自己組織化させることにより、無機・有機ハイブリッド型キラル多孔質固体触媒の一段階合成に成功した。本触媒は共役エノンの不斉エポキシ化に極めて有効であり、また、長期間の保存や回収再利用も容易なため環境調和型の実用的触媒として大変優れている。合成した高光学純度のエポキシケトンを生理活性に興味が持たれるβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸誘導体へ変換することにも成功した。 一方、既に光学活性ビナフチルリン酸のスカンジウム塩(Sc[(R)-BNP]_3)を不斉ルイス酸触媒とする共役エノンへのアルコキシアミンによるマイケル付加反応で高エナンチオ選択性(up to>99% ee)を達成しており、対応するα-ケトアジリジンへの変換にも成功している。得られたα-ケトアジリジンは、医薬品原料として有用なβ-ヒドロキシ-α-アミノケトン誘導体やキラル配位子として有用なアミノアルコールへ変換する効率的方法も見出した。
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