イミニウムイオンは平面構造をとる典型的なカルベニウムイオンである。本研究で、不斉な環状アシルイミニウムイオンの存在の可能性を探った。アシルイミニウムイオンはα-アミノ酸の電解酸化脱炭酸で生成させ、そのキラリティーは溶媒であるMeOHが求核攻撃した生成物の光学収率(%ee)から推定した。窒素原子にベンゾイル基の置換した光学活性プロリンをMeOH中で陽極に白金を用いて電解酸化すると脱炭酸したα-メトキシ-N-ベンゾイルピロリジンが生成したがその光学収率はゼロであった。しかし、同じ条件下、N-o-フェニルベンゾイル基の置換した光学活性プロリンの電解酸化は46%eeを持つ酸化生成物を与えた。この光学収率に及ぼすピロリジン骨格の構造の影響を調べた。その結果、α'位に二つのメチル基が存在すると、83%ee、また、β位に二つのメチル基、α'位に二つのメチル基が存在するピロリジン同族体では、91%eeになることを明らかにした。ピロリジン環の構成元素を炭素から酸素あるいは硫黄に変えてもほとんど光学収率には影響しなかった。次いで、白金から炭素に陽極に変えて電解酸化すると、酸化生成物の光学収率が白金陽極を用いた場合より約15%ee程度負側に移動すること、白金陽極で0%eeであった光学活性α-アミノ酸の場合には、-39%eeの値になることを見いだした。電解酸化の代わりに四酢酸鉛などの酸化剤では、白金陽極と同様な光学収率の結果を得た。これらの知見から、白金陽極を用いた電解酸化の場合、電極表面に吸着していない不斉な環状アシルイミニウムイオンの存在が示唆された。また、炭素陽極の場合には、炭素陽極上に吸着した不斉な環状アシルイミニウムイオンがあると推定された。
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