ベンジル位や酸素、窒素原子のα位のカルベニウムイオンは平面性を持つ安定カルベニウムイオンとして知られ3次元構造を必要とする不斉とは縁遠い活性種であった。本研究は、不斉な窒素原子のα位カルベニウムイオン、即ち、不斉なイミニウムイオンの創成を目的として行ったものである。さて、14年度において光学活性N-アシルプロリンの電極酸化脱炭酸によって対応するN-アシルイミニウムイオンを生成させ、この活性種と溶媒のMeOHとの反応生成物が、N-保護基がo-PhPhCO基の時、46%eeまで元の不斉を残す(不斉記憶)という結果を記した。その後の研究によって、光学活性環状α-アミノ酸の構造が不斉記憶に及ぼす影響を精査し、ペニシラミン酸から誘導した硫黄原子を含む環状α-アミノ酸を用いたとき、91%eeの不斉記憶を与えることを見いだした。また、生成物の不斉炭素の絶対配置を示唆するデータを得、これを基に反応機構を明らかにした。電極酸化の代わりに四酢酸鉛等の金属酸化剤を使っても、不斉記憶は観測されたがその効率は電極酸化の七割程度の大きさであり、また、収率が極端に低かった。 次いで、環状α-アミノ酸だけでなく環状アミノアルコールの電解酸化でも不斉な環状イミニウミオンが介在してキラル生成物が生成することを見いだした。環状α-アミノ酸から46%eeのイミニウムイオンが、環状アミノアルコールからは50%eeで得られるので、不斉記憶発現にカルボキシル基が必須でないことがわかった。
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